By M・K(SIA理事、日本パラオ協会理事)
パラオの青年がイラク戦争で戦死した
と言うニュースを、昨年秋某紙上で知り驚いた。独立国であり軍隊を持たないパラオなのになぜ?
・・‥メレンゲサウ大統領は記者の質問に次のように答えている。
「パラオの人口約二万人の中千人以上、労働人口の約一割が米軍に入っている。
比率はパラオと同じように米国と自由連合協定を結んでいるミクロネシア連邦、マーシャル諸島と比べ一番高い。相当数がイラクへ行っているだろう。私自身二人の従兄弟がアフガニスタン、甥がイラクへ行っている。」その理由については「パラオ人は、太古インドネシアから舟で渡って来たといわれる。星を道しるべに世界中、見知らぬ島々を旅するフロンティア精神豊かな民族。米軍に入れば世界中を回り、勉強することもできる。多くの若者が入隊を目指すのも民族性がそうさせているのだろう。」また戦死者については、「彼はまさにパラオが民主主義のために貢献し、テロリズムと戦っていることの象徴である。」しかし大統領の建前論、公式見解の裏にはこの国の経済、雇用問題が隠されているようだ。
ある政府関係者は、入隊事情をこう説明している。「国連の信託による米国統治時代も米軍に入る若者はおり、一九九四年の独立以降も年三〇〜五〇人ペースで入隊している。政府の方針として支持しているわけではなく、自分で選択しているに過ぎない。」
またパラオの雇用事情について「パラオ人が望む職業は公務員か銀行員。ホテルやスーパーなどの従業員は殆どがフィリピンからの出稼ぎだ。最低賃金制度も適用されない極めて低い賃金で働いており、パラオ人にはこうした仕事に就くくらいなら米軍に入った方が体面が保てるという意識もあり、これが入隊の流れを下支えしている。」と述べている。
毎年定期的に入隊試験が行われるが、若者達の志望動機はさまざまである。
「船の整備士を目指している。米軍ならタダで資格が取れるし、親も頑張れと言っている。」「コンピューター技術者になりたい。米軍で勉強できるだろう。」「電気技師になりたいので受験したが、反対されそうなので親には内緒だ。」
無事に帰ってきた若者が、高級ボートを乗り回し羽振りがいいのに釣られて、など安直なモチベーションもあるようだ。
以前JICA青年海外協力隊員の先生に、パラオの子供達の将来の夢について質問したことがあったが、プロスポーツの選手、歌手、先生などと並んでソールジャーが上位にランクされていた。不審に思い理由を聞いたところ彼女にも分からないということだったが、今回のニュース記事でそのあたりの事情がはっきりした。二年交代で離れ小島の小学校に勤務する彼女にはパラオ社会全体の情勢が見えていなかったのであろう。
独立後十年を過ぎたというのに国家財政の四割を米国の援助に頼り、観光以外の産業を育成してこなかった歴代政権の怠慢がイラクでの戦死者を生んだと言えるのではないだろうか。彼の遺した今年4歳になる女の子は、ミヤカイというパラオ名のほかにテルエという日本名も持っている。日本人を親戚に持つお祖母ちゃんの希望によるものだという。(SIAニュースより転載)
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